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市民公開編「在宅における栄養管理」のレポート

ものがたり在宅塾 市民公開編 第2回 2012/08/22

 

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「在宅における栄養管理」
手塚波子氏(小川医院 管理栄養士)

 

 小川医院(金沢市)で在宅訪問による栄養指導を行っている。栄養と食物は、薬物治療、介抱といった医療を支える土台である。適切な管理とアドバイスによって、お年寄りが自宅で過ごせるように手助けしていきたい。しかし、在宅療養患者の栄養面をサポートしている栄養士はまだほとんどいない。今後の在宅医療においてこの役割は重要であり、専門職として養成していかなければならないと考えている。

■在宅患者の栄養面をサポート
「体重が減ってきた」「肺炎を繰り返す」「食べ物をのみこめず食事に時間がかかる」「胃ろうではなく口から食べさせたい」「腎不全や糖尿病の家族の食事をどうすればよいか分からない」といった患者と家族の相談に対応している。
経済力や食文化をはじめ各家庭によって介護環境は異なる。退院して自宅療養を始めてみなければ分からないことが少なくない。栄養管理の面でいえば、食材の買い出しや調理の技術などが課題となってくる。胃ろうを拒否して退院した患者が2度にわたり正月を迎えることができた例がある。患者がカスタードクリームを気にいってくれたので、栄養補給の中心メニューになった。病院からは「退院すれば2週間で亡くなる」と言われていた。ケースバイケースの対応は可能だ。
在宅指導を始めた当初は介護度が重くなってからの依頼が多かったが、活動が認知されるようになり早期での相談が増えているのはよい傾向だと思う。介護保険制度では月2度の「居宅療養管理指導」が認められているが、容態の変化に対応するには不十分だと感じる。

■食事は介護の主要課題

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 食事・栄養補給において患者が抱える問題は「食べることができなくなる」「食べる楽しみがなくなる」「低栄養や脱水の恐れ」「誤嚥や窒息の危険性」などが挙げられる。歯が悪くなって食べられなくなる人もおり、その際は治療するように指導する。

食事に問題があると、介護する側の負担も大きくなる。老老介護では食材の買い出し自体が難しい。介護するのが男性で、調理の能力が課題になることも少なくない。ホームヘルパーにとっても食事づくりが一番大変な仕事だ。

■脱水症状に注意
お年寄りは脱水症状になりやすく、在宅療養で最も留意すべき点のひとつ。加齢によって身体の成分比率は変わる。中でも変化が大きいのが水分量。筋肉が落ちることが主因となり、体に水を貯めておけなくなる。25歳なら身体の42%が水分だが、75歳は33%まで低下する。水分が足りなくなると体にさまざまな障害が表れる。唾液が少なくなり殺菌能力が低下して肺炎になることもある。体内の水分の5~10%を失うと吐き気やふらつきが出る。15~20%失うと致死的な状態になる。
患者の脇の下を触って、つるんと滑るような感覚があったならば、湿り気がないということで水分が不足していると判断できる。また、爪を指で押し、離してから赤みが戻るまで2、3秒以上かかるようだと脱水の恐れがあり注意してほしい。
成人なら1日で約2500mlの水分の出入りがある。飲料水で約1200ml、食べ物から約1000mlは摂取している。患者は1日に湯飲み(200ml)で7杯前後を目安にし、朝起きた時・3度の食事中・服薬時・おやつ時・夜寝る前などのタイミングで摂取してほしい。特に就寝前には水分を摂るようにしたい。夜のトイレを心配して飲みたがらない人もいるが、そうしなければ夕食後から朝まで長時間にわたり水を摂らないことになるので不足してしまう。また、下痢やおう吐、発熱のある時はいつもより多く水分を失っているので補給が必要だ。水を飲みにくい患者のために、とろみを付けたり、ゼリー化する工夫をする。

■簡易評価で低栄養を防ぐ
低栄養になると皮下脂肪、筋肉が喪失する。足先の軽度の浮腫も低栄養の兆候である可能性がある。体重が減少すると、免疫力が低下し、気管支肺炎や誤嚥性肺炎も発症しやすくなる。
栄養状態は「簡易栄養状態評価表(MNA)」によって評価することができる。アセスメントツールとして活用でき、低栄養の恐れがある患者を発見して指導することができる。石川県内では各地の訪問看護ステーションで実施できる体制が整っている。

 

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■食べやすさと栄養考え調理を工夫

食べ物は咀嚼して口の中でまるめて飲み込む。これが難しくなった患者のためには調理に工夫が必要になり、その指導を行っている。水分となめらかさを調整して食塊を形成しやすくするのがポイント。油脂やとろみ、つなぎ・ソースなどを使う、寄せる・ゼリー化などの方法を用いる。マヨネーズは栄養価も高く使いやすい。ひと工夫すれば食事に彩りを加えることもできる。2度挽きした肉でハンバーグを作ったり、そうめんをゼリー寄せにしたり、自宅で栽培したミニトマトをゼリーにしたりしたこともあった。ゲル化剤にも多くの種類があり用途に応じて使い分けられる。
タンパク質を摂取するためにおかゆに卵を入れるのもよく用いる方法。少量で高栄養の栄養補助食品がドラッグストアで販売されており活用するとよい。

◇栄養士が在宅訪問で支援できること
▽経管栄養管理(栄養剤の選択、必要量の決定、投与方法)
▽必要栄養・水分量確保の助言(高栄養メニューの紹介)
▽栄養アセスメント(食事量の把握、栄養状態の評価、栄養素の過不足の評価)
▽配食サービスとの連携(内容の評価、改善依頼、採血データ情報)
▽食環境の整備(買い出し、調理器具整備、配食サービスの依頼)
▽調理指導(食材の選択、食形態の工夫、ヘルパーへの支援)
▽慢性疾患食事療法の指導(糖尿病、腎不全)
▽体重管理(減量や調整)
▽他職種への情報提供