12.10.17

市民公開編「嚥下のしくみと胃ろう」のレポート

ものがたり在宅塾 市民公開編 第3回 2012/09/26 般若農業構造改善センター 

 

「嚥下のしくみと胃ろう」
zaitaku120926_01竹内満氏(城北病院 言語聴覚士)

 

 城北病院(金沢市)で言語聴覚士(ST)をしている。言語聴覚士は国家資格になって歴史が浅い。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)とともに患者のリ ハビリに対応する。失語症や構音障害、言語発達障害、吃音、聴覚障害などのほか、近年では嚥下障害への対応も多くなっている。
摂食・嚥下障害に関わる症状は、むせる/飲み込めず口の中に長くもつ/肺炎を繰り返す/吐くなど多岐にわたり、言語聴覚士に相談が寄せられる。

 

■飲み込むってすごい!

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 ヒトはむせる動物である。ほかの動物はむせない。年をとれば飲み込みにくくなり、むせやすくなる。
せんべいを食べる時の舌の動きを観察してみよう。口に開けて噛もうと意識せずにあごを上下させただけでは口の中でコントロールがきかず飲み込むのは難し い。次にいつものように食べてみると、舌が8の字のようによく動き、ほおも食べ物を中央に寄せるように動いているのが分かる。
のど仏の上に指を軽く当ててみる。そしてつばを飲む。すると飲み込む時にのど仏が指1本分は上へと動いているのが分かる。この動きは女性のほうが弱い。

人間は同じ場所を使って、しゃべり、呼吸をし、食べている。普段は息をするため肺につながる気道が開き、食道は閉じている。飲み込む時の一瞬だけ食道が 開く。だから逆立ちしていても飲み込める。ほかの動物にはないすごい仕組みだ。しかし、これが誤嚥を引き起こす。食べ物などが誤って気道に入ってくる。
上を向いて口を開けて舌を出したままでは飲み込むことはできない。老いると姿勢が前かがみになり、バランスととるためにあごが上がって上を向いているような状態になりやすい。だから飲み込むことが難しくなり、誤嚥も起こりやすくなる。

 

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2人組で水を飲ませてもらう/
飲ませる体験をしてみよう。
①目を閉じてじっと待つ/
何も言わず体にも触れずに飲ませる
②目を開けてじっと待つ/
声を掛け体にも触れながら飲ませる
③目を閉じているが手は動かせる/
コップを持たせて手を添えて飲ませる

 

 お互いにどれが飲みやすく、どれがやりやすかっただろうか。介助される側は自分の手を動かすほうが感覚がつかみやすく安心感があったと思う。介助する側にすべてをゆだねると熱いのか冷たいのか、どのぐらい口に入ってくるのか分からない。
一方、介助する側はすべてを自分でやってしまったほうがよいと感じた人もいるだろう。介助される側と介助する側には感じ方にずれがあることを知っていてほしい。

■誤嚥性肺炎をどう防ぐか
肺炎は死亡原因の3位を占めるまでになった。肺炎による死亡の9割以上は誤嚥を合併する高齢者であり、誤嚥性肺炎の予防が重要になっている。
誤嚥性肺炎を発症する原因にはさまざまなものがある。いくつかが重なって起こることが多い。誤嚥をするから誤嚥性肺炎になるとは限らない。せきをして 誤って入ってきたものを出す力(喀出能力)があれば発症しにくい。強いせきができることが大事。体力、免疫力によって予防でき、誤嚥の量・内容にも関係し てくる。栄養管理とリハビリテーションの下支えが必要。
寝たきりになると咽頭の細菌数が増え、誤嚥性肺炎につながりやすい。なるべく離床して活動量を上げる、口腔ケアを怠らないなども予防策だ。

肺炎は死亡原因の3位を占めるまでになった。肺炎による死亡の9割以上は誤嚥を合併する高齢者であり、誤嚥性肺炎の予防が重要になっている。
誤嚥性肺炎を発症する原因にはさまざまなものがある。いくつかが重なって起こることが多い。誤嚥をするから誤嚥性肺炎になるとは限らない。せきをして 誤って入ってきたものを出す力(喀出能力)があれば発症しにくい。強いせきができることが大事。体力、免疫力によって予防でき、誤嚥の量・内容にも関係し てくる。栄養管理とリハビリテーションの下支えが必要。
寝たきりになると咽頭の細菌数が増え、誤嚥性肺炎につながりやすい。なるべく離床して活動量を上げる、口腔ケアを怠らないなども予防策だ。
 

■低栄養の背景に嚥下障害

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 言語聴覚士の役割は、絶食の期間を1日でも減らし口から食べてもらう/食べられなくても栄養を確保して体力を回復/身体を動かして衰えを最小限にとどめる/口腔ケアの継続/誤嚥対策/嚥下リハビリテーションなど。
「食事介助がしにくい」「食べこぼしが多い」「食べてくれない」「せきが弱い」「言葉が聞き取りにくい」といった患者の状態の裏には、さまざまな原因がある。リハビリでは、これらの気になるところから背景を考え、深く影響している原因を解消するためのアプローチを行う。
ある寝たきり患者の場合、肩こりなど首まわりの固さが誤嚥の原因であると考えた。リラクゼーションを図るためにまくらの仕方を工夫し、併せてゼリーでの訓練を行うことで嚥下障害を改善することができた。

嚥下外来として在宅や施設入所者への対応も行っている。嚥下障害が低栄養の背景として存在することがある。嚥下障害の評価を受けたことがない人が圧倒的に 多いのが現状。かかりつけ医にも嚥下障害についてよく知ってもらいたいと考えている。胃ろうなど経管栄養であっても口から食べられる可能性があるならば、 それを示して実現したいと思う。

 

■胃ろうの是非
 胃ろうを延命措置と混同してはいけない。導入するのには理由と必要性があり、書物から4つのパターンを紹介する。
▽疾病経過型=疾病からの回復が順調でなく点滴や軽鼻チューブなどでの栄養補給が長期間見込まれる場合/導入のメリットはあるが、退院時に外し口からの食事に移行すべき
▽嚥下障害型=脳卒中やパーキンソン病など神経難病の末期などで嚥下機能が失われた場合/導入と継続を検討する必要がある。
▽安全管理型=認知症で食事を摂らなくなり、無理に食べさせるより安全で手間が省ける場合/なぜ食べられなくなったのか、原因(脱水症状や薬の服用など)を確かめ改善する必要がある。
▽ターミナルケア型=終末期で食事を摂れなくなり栄養の直接補給で延命させる場合/胃ろうでも唾液が肺に入るなどで誤嚥性肺炎は多い。延命効果はないというデータもある。

 

■在宅でどう支えるのか
  老いて階段を下りていくのを、どう支え、寄り添うのか。終末期になれば、唾液が飲めるということさえ介護する側にとっての喜びであり、やりがいになる。患 者本人のために真剣に考えた結論なら、どんな結論でも構わない。患者のために精いっぱいやったという思いがあることが大切だと考える。家族の決断をサポー トするために言語聴覚士としての専門性を発揮していきたい。
患者に「おいしい」と言ってもらえるのがやりがいになっている。食べる楽しみを追求することが食事量のアップ、誤嚥性肺炎の予防につながる。楽に寝て、楽に座って、喜んで食事を摂ってほしい。そんな姿をみることで家族や介護職員にも元気になってほしいと思う。