12.12.20
市民公開編「予防ということ」のレポート
ものがたり在宅塾 市民公開編 第6回 2012/12/12
「予防ということ」
佐藤伸彦氏(医療法人社団 ナラティブホーム理事長)
予防接種、寝たきり(骨折・骨粗鬆症)と動脈硬化の予防が本日のテーマだ。
予防接種には「定期接種」と「任意接種」がある。「定期接種」は法律に基づいて市町村が実施する。予防対象となる病気は、ジフテリア・百日咳・破傷風/麻しん(はしか)/風しん(三日はしか)/ポリオ(急性灰白髄炎)/結核。
インフルエンザは65歳以上と、60歳以上65歳未満の心臓や腎臓、呼吸器に重い障害がある人が定期接種の該当者となる。これ以外の人は任意接種となり、受けるかどうかは個人の判断による。以前はすべての人がインフルエンザの定期接種の対象だった。学校で接種を行っていたのはこのためだ。
「任意接種」によって予防するのは、インフルエンザ/おたふくかぜ/水痘/B型肝炎・A型肝炎/肺炎球菌/狂犬病など。このほか、天然痘や黄熱、コレラなどもワクチンによる予防が可能で、海外旅行の行き先によって接種を勧められるケースがある。
■有効性が高い肺炎球菌の予防接種
肺炎球菌の予防接種は受けることをお勧めしたい。なぜなら高齢者が肺炎になる原因菌の1位は肺炎球菌だからだ。肺炎球菌感染症は発症頻度が高く、しかも重症化しやすい。自治体からの補助はなく実費で7000円弱かかるが、ワクチンの予防効果は5年以上持続する。肺炎球菌が引き起こす病気としては、気管支炎・肺炎/副鼻腔炎・中耳炎/髄膜炎/骨髄炎/関節炎/敗血症などがある。子供がかかる病気が多く、お年寄りに限らずワクチン接種は有効だ。
ワクチンを接種するとその病気に対する免疫ができる。体内で抗体がつくられるからだ。抗体はイメージでいうと病気と戦う兵隊。幼い子供はよく病気になるが、この時期にいろんな抗体をつくっている。
ワクチンにも種類があり、「生ワクチン」は弱毒化したウイルスや細菌をそのままワクチンにしている。接種後に体内で増殖するので、軽くではあるが発熱や発疹などその病気の症状がでる。「不活化ワクチン」はウイルスや細菌を加熱やホルマリンなどの薬剤によって処理し、病原体の活力を失わせて不活化したもの。必要な免疫を獲得・維持するためには数回接種しなければならない。インフルエンザワクチンはこれにあたる。
日本ではこれまで、ポリオ予防に生ワクチンを使っていたが、今年からリスクの低い不活化ワクチンを使用することになった。
■流行後、“新型”ではなくなったインフルエンザ
2009年には人々が免疫をもっていなかった新型インフルエンザが大流行した。しかし、流行してワクチンも開発されると2011年3月には通常の季節性インフルエンザとして扱われるようになった。新型ではなくなったため、言葉も聞かれなくなった。
世界的な大流行を「パンデミック」と呼ぶ。大正7年(1918)から流行したスペインインフルエンザ(スペイン風邪)による死者は日本で約40万人、全世界では2000万人とも4000万人ともいわれている。昭和32年(1957)にはアジアインフルエンザ、昭和43年(1968)には香港インフルエンザ、平成21年(2009)に新型インフルエンザが流行した。
鳥インフルエンザはアヒルやカモなど鳥類の感染症で、若鶏にも感染する。そもそもインフルエンザが種をまたいで感染することはないが、あるウイルスの型の鳥インフルエンザが家禽から人間に感染して発病することがある。これがもし変性して人間から人間へと感染するようになると、強烈なインフルエンザとしてパンデミックを起こす可能性があるため警戒されている。
■骨折予防が寝たきり予防につながる
平成22年(2010)の統計によると、65歳以上でほぼ寝たきりになった直接の原因は、①脳卒中(24.1%)②認知症(20.5%)③高齢による衰弱・老衰(13.1%)④骨折・転倒(9.3%)⑤関節疾患(7.4%)。6位以下はパーキンソン病、心臓病、糖尿病、呼吸器疾患、がんと続く。高齢による認知症と老衰を除くと、脳卒中と骨折・転倒・関節疾患は2大原因であり、予防が寝たきり防止につながる。
人間の体は220個以上の骨からできている。加齢によって折れやすくなる箇所は決まっていて、背中や腰/腕のつけね/手首周辺/太もものつけねの4つ。背中や腰の骨は圧迫されてつぶれてしまう。骨がすかすかになる骨粗鬆症になると、わずかな衝撃でも骨折しやすくなる。骨折してはじめて骨粗鬆症だと気づく人が多い。病院で骨密度の測定を受けてみるとよいだろう。
骨折を予防するためには、<1>骨の材料となるカルシウムを食事で十分に摂る(牛乳・乳製品、小魚、海藻、緑黄色野菜)、<2>カルシウムの吸収をよくするために日光浴をして体内にビタミンDを増やす(木陰で30分ぐらいの日光浴をする)、<3>血液中のカルシウムを骨に結合させるために軽い運動をするとよい。また、骨粗鬆症には薬もある。
以下が寝たきりゼロへの10カ条。
●脳卒中と骨折予防 寝たきりゼロへの第一歩
●寝たきりは 寝かせきりから作られる 過度の安静 逆効果
●リハビリは早期開始が効果的 始めよう ベッドの上から訓練
●くらしの中でのリハビリは 食事と排泄 着替えから
●朝起きて まずは着替えて身だしなみ 寝食分けて 生活にメリハリ
●「手は出しすぎず 目は離さず」が介護の基本 自立の気持ちを大切に
●ベッドから移ろう移そう車いす 行動広げる 機器の活用
●手すりをつけ 段差をなくし 住みやすく アイデア活かした住まいの改善
●家庭(うち)でも社会(そと)でも喜び見つけ みんなで防ごう閉じこもり
●進んで利用 機能訓練 デイサービス 寝たきりなくす人の和 地域の輪
■喫煙のリスク高し。受動喫煙も要注意
脳卒中を引き起こす動脈硬化の5大原因は、高脂血症/高血圧/喫煙/糖尿病/肥満。バランスのとれた食事で予防したい。肥満解消、オメガ3脂肪酸の多い食事(青魚、えごま油、しそ油、亜麻仁油、くるみ、緑黄色野菜、豆類など)をとる、脂身の多い肉など動物性脂肪を食べ過ぎない、葉酸の多い食品を摂取するなどがポイント。
生活習慣では、ストレスや睡眠不足、塩分の摂り過ぎ、アルコールの飲み過ぎなどに注意がいる。スロージョギングなど有酸素運動をし、タバコは控える。体重・血圧を測って自己管理を心掛け、かかりつけ医を決めて定期的に検査を受けてほしい。
強調しておきたいのは喫煙のリスクについて。タバコの害がいろいろと判明してきている。日本人男性で喫煙する人の死亡率は、しない人の2.1倍にのぼる。高血圧だと1.4倍、糖尿病だと1.3倍、メタボだと1.1倍になるのと比べてもきわめて高い。また喫煙すると糖尿病やメタボになりやすいとのデータもある。
喫煙者が身近にいて煙を吸い込んでしまう受動喫煙のリスクは、自らタバコを吸う能動喫煙に匹敵するほど高い。職場における喫煙と糖尿病になるリスクを調べたところ、能動喫煙により発症するリスクが1.99倍になるのに対し、受動喫煙でも1.81倍に高まるとのデータもある。
◆質疑
Q:肺炎球菌の予防接種について。
A:予約をしてもらい、ワクチンを取り寄せる。予防効果が継続するので、インフルエンザとは異なりどの時期に受けてもよい。
Q:高血圧の予防について。
A:日本人は塩分を摂り過ぎており、控えればよいのだが分かっていてもそれが難しい。ただ、塩分控えめの病院食に慣れると退院後に食べるラーメンがとても塩辛く感じるように、舌も味に慣れてくる。できるところから少しずつ取り組んでみればよいと思う。