在宅というとすぐに高齢者となるが、赤ちゃんも忘れてならない。長崎県壱岐市でのことである。壱岐市は壱岐島を全エリアとして、人口は28,000人。市民病院はあるが、高度な小児救急には対応できない。その場合はフェリーで九州・福岡に搬送される。ある日のこと。壱岐の訪問看護ステーションに福岡の病院から電話が入った。
「3週間後、次に面会に来るまでに、赤ちゃんの命がもつかどうか」という医師の説明に、両親は「このまま壱岐に、何としても連れて帰りたい」と涙ながらに懇願した。この医師が訪問看護センターに、引き受けてくれないかと電話を入れたのである。
「引き受けますが、その後に予測される事態に応じられるように、島に着いたらすぐに小児科医のいる市民病院で診察してもらいたい」とステーション所長は応じた。所長はすぐに市民病院に連絡をとる。金曜日の夜になるが、外来での診察に応じて欲しい、と一歩も引かぬ思いで迫り、確認を取った。
翌日の土曜日。一晩両親と過ごした赤ちゃんのところへ、所長の看護師が訪れた。チューブを外し、お母さんと一緒に沐浴させ、しっかりとだっこしてもらいながら、おっぱいを吸えるか吸えないかわからない状態だったが、胸に顔をくっつけて少し口を動かしたように見えた。そして翌日の日曜日。お母さんの胸に抱かれて、赤ちゃんは亡くなった。(医学書院刊「訪問看護と介護」9月号から)。
新生児集中治療室(NICU)からすぐに在宅へ。現在の訪問看護の仕組みが想定しているのは基本的には「高齢者」への支援であり、「介護保険」を中心に運営されている。しかし、こうした少数であるが赤ちゃんの在宅への支援ケースがあることも忘れてはならない。(K)