ものがたりスタッフBlog

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言語聴覚士

 聞き慣れないが国家資格である。スピーチ・セラピストから通常STと呼ばれている。失語症、構音障害、吃音などを対象としているが、近年はもっぱら嚥下障害を対象にしている。理学療法士(PT)作業療法士(OT)と並んでセラピスト御三家というところ。

 今回の講師は金沢市にある城北病院所属の竹内満ST。パワーポイントで、嚥下の仕組みを映像を使って説明し、水やせんべいを各自に配って、舌の動きを手鏡などで観察させる実技付きで、実にわかり易かった。喉元での絶妙な動きが、食道に食べ物を送り込んでいるのか、と思うと感動する。呼吸をする、食べる、これを気道と食道にきちんと分類して、休むことなく続けている。人間というのは凄い、となる。

 むせた経験のない人はいない。人間はむせる動物なのである。赤ちゃんも、動物もむせない。これは喋らないからである。むせるとは本来食道にいかなければならないものが、ちょっと気道にはいるからだ。喀出能力で事なきを得ているが、この能力が衰えてくると誤嚥ということになる。肺炎での死亡率が第3位に浮上しているが、高齢化と比例している。寝たきりになると咽頭細菌数も増え、誤嚥性肺炎のリスクが高まる。

 ここからが言語聴覚士の出番で、「口から食べることをけっしてあきらめない」。顔付きがプロフェショナルに変わる。在宅で寝込んだ92歳のおばあさんを、5ヶ月かけて誕生日のケーキを食べれるまでに回復させた。枕を高くする、両肩にタオル等を当てて高くする。見た目には簡単そうだが、そこにはプロとしての観察眼が生きている。ゆっくりゆっくり栄養管理とリハビリを欠かさないで、その状態までにもっていくのだ。大変な苦労である。

 ところで、砺波には、在宅でやってくれるこの言語聴覚士はひとりもいない。誤嚥性肺炎が死因の第3位に浮上するのに、何とかしなければならないのではないか、が結論となった。(K)


整形外科医のつぶやき

 砺波総合病院の整形外科部長・山田泰士(ひろし)さんが講師である。話し振りは人格そのもので、リズムがあって、おもしろい。福井出身の材木問屋の跡取り息子が整形外科医に転じた。大腿骨頸部骨折が専門で、102歳のおばあさんの手術もこなしている。「先生、畑の仕事できるけ」と聞く患者がほとんど。会話の楽しさから、「先生、また顔見に来っちゃ」といわれるが、一番嬉しい時という。

 整形外科ではロコモティブ・シンドロームといって、ひとりで歩けなくなるかもしれない症候群をいう。メタボほど普及していないのが悔しそうだ。予防にロコトレと称する開眼片脚立ち、スクワットを推奨している。これに食事でカルシウムの補給、適度の日光浴を加え、骨を強くして転ばないことが予防の秘訣。毎日骨骨(コツコツ)がんばることだ。信条は病気があるからといって、不健康でない。病気ではないが、不健康な人はいっぱいいる。元気がないのが最も不健康。健康とは病気と元気の素敵な関係といい切る。

 そして、こんな大胆なことも。病院内で歩いていて骨折する患者さんがいる。裁判では病院側の敗訴が多い。だからといって、ベッドに抑制をしていて、骨折を防ぐというのはほんとうに患者さんのことを考えているのだろうか。病院のことだけを考えているに過ぎないのでは、と疑問に思っている。ひとりで歩ける幸せは何者にも代えがたいはずだ。

 また、総合病院の忙しさにもかなりまいっている様子で、「後医は名医である」と断言する。骨折かどうかの判断はかなり難しい。だからといって、診断を下さざるを得ない。次の医者は当然、別のことを疑う。先に診た方が誤診となる。しかし高齢の患者が手術を嫌がって、多少痛いが自分の足で動いているのを見ると、手術だけが万能ではないと思う時もある、と実に率直な整形外科医である。医者の見分け方だが、コミュニケション力が決め手かなと思うようになってきた。

 ここで講演会の案内です。10月3日(水)午後7時から、砺波市文化会館小ホールで、「在宅ケアのルネッサンス」と題してオランダの先進的なケアを紹介します。これからはこの方式が主流になっていきます。どなたでも参加できます。ぜひ、おいでください。(K)


赤ちゃんの在宅

 在宅というとすぐに高齢者となるが、赤ちゃんも忘れてならない。長崎県壱岐市でのことである。壱岐市は壱岐島を全エリアとして、人口は28,000人。市民病院はあるが、高度な小児救急には対応できない。その場合はフェリーで九州・福岡に搬送される。ある日のこと。壱岐の訪問看護ステーションに福岡の病院から電話が入った。
 「3週間後、次に面会に来るまでに、赤ちゃんの命がもつかどうか」という医師の説明に、両親は「このまま壱岐に、何としても連れて帰りたい」と涙ながらに懇願した。この医師が訪問看護センターに、引き受けてくれないかと電話を入れたのである。
 「引き受けますが、その後に予測される事態に応じられるように、島に着いたらすぐに小児科医のいる市民病院で診察してもらいたい」とステーション所長は応じた。所長はすぐに市民病院に連絡をとる。金曜日の夜になるが、外来での診察に応じて欲しい、と一歩も引かぬ思いで迫り、確認を取った。
 翌日の土曜日。一晩両親と過ごした赤ちゃんのところへ、所長の看護師が訪れた。チューブを外し、お母さんと一緒に沐浴させ、しっかりとだっこしてもらいながら、おっぱいを吸えるか吸えないかわからない状態だったが、胸に顔をくっつけて少し口を動かしたように見えた。そして翌日の日曜日。お母さんの胸に抱かれて、赤ちゃんは亡くなった。(医学書院刊「訪問看護と介護」9月号から)。
 新生児集中治療室(NICU)からすぐに在宅へ。現在の訪問看護の仕組みが想定しているのは基本的には「高齢者」への支援であり、「介護保険」を中心に運営されている。しかし、こうした少数であるが赤ちゃんの在宅への支援ケースがあることも忘れてはならない。(K)
 


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