ものがたりスタッフBlog

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栄養士も、在宅へ。

 在宅の最も大きな目的は社会復帰にある。病院にいれば、患者の個性が消されて番号と変わらないが、家に帰れば、お父さんであり、おじいさんであり、その人の居場所がある。家族や近隣の関係の中で居場所を持つというのが社会復帰です。
 そんな主張をしているのが、金沢市笠舞にある小川病院の小川滋彦院長。「胃ろう専門病院」と自称して地域密着型無床診療所を営んでいるが、在宅医療の中心に栄養管理を据えている。そこで管理栄養士として外来患者はもとより、訪問しての居宅栄養管理に奔走しているのが手塚波子さん。彼女を招いて、第2回ものがたり在宅塾を開いた。
 手塚さんは、家庭菜園もやり、そこで出来たトマト、きゅうり、ゴーヤを手に訪問した家庭の台所にも立つ。糖尿病や腎不全などの慢性疾患の方へのカロリー、栄養バランスなど懇切な説明、また嚥下障害のある人には、トロミの付け方など実演も加えての指導をする。医療保険、介護保険を使って、月2回までの訪問が可能で、自己負担が1回530円。全国でも珍しい。
 くも膜下出血で胃ろうをつけて退院したおじいさんは、笠舞の隣の白山町に住む。依頼があって小川医師とともに駆けつけ、数ヶ月で胃ろうを外し、口から食べれるようになった。いつの間にか家族の中でも威厳を取り戻し、正月の家族祝宴の中心に座っている。何といっても人間には食事が大事。胃ろうを付けたからといって、経口からの食事をあきらめることはない。それでも初期での早めの対応が絶対大事という。

 会場から胃を全摘した人が質問した。カリウムが取り過ぎが命取りになると警告を受けているが、トマトやスイカが好物なのでなんとも難しい。おまけに女房が糖尿病ときているので、全くお手上げの状態と嘆いた。地域包括の専門委員の方に相談して、簡易栄養状態評価表のチェックを受けてください、との回答だった。
 栄養士の方も地域にどんどん出ていく時代がやってきている。病院や施設に閉じこもらないで、あらゆる職種が地域に出て行かなければならない。
 


退院調整看護師

 病院のイメージを変えなければならない。元通りに治すというより、多少治らなくても一定の生活が出来る状態にする治療という感じで、徹底して病気と闘うのだというものではない。病気と一緒に生活も楽しんでいこうということ。だから入院する時から、いやもっと早く通院する時から、退院を考えておかなければならない。退院をスムースにおこなえるかどうかが病院経営の重要なポイントになろうとしている。
 8月11日、退院調整看護師の草分けである宇都宮宏子さんを招いて、砺波市散居村ミュージアムで講演会を行った。ナラティブホームの主催だが、これにはちょっと裏がある。現在の経営レベルではまだ社会貢献というわけにはいかない。厚生労働省が在宅医療連携拠点として予算を出してくれたのである。
 退院調整看護師と聞き慣れない職種だが、退院のキーマンである。この宇都宮宏子さんの話し方が実にうまい。格好のテーマということで100人を超える医師、看護師、ケアマネージャーさんたちが駈けつけてくれたが、全員が引き込まれていった。在宅療養の伝道師といわれているが間違いない。患者の思い、家族の思いを身近に把握できるのは看護師であり、治療モデルから生活モデルへ、わかりやすく伝えられるのも看護師である。それもありきたりの取ってつけた説得ではなく、関係者からいろんな話を聞き、それなら在宅で頑張ってやれそうだと思わせる説得力が求められる。家で過ごす患者の表情は豊かだし、ケア後に起き上がり、自分で食べられるようになる姿を見て、看護の力で生活の質が上がったと実感できるのだから、これほど働きがいの感じられる仕事はない。その熱弁に会場のみんながなるほどと思う。
 「入院は、生活者がたまたま病院にいるだけ。患者の管理ではなく、患者の視点を持てる看護師になってほしい。また患者のためにいろいろな多職種がもっともっとコミュニケーションを図らなければならない」。
 病院で死ぬ時代は終わる、というより、終わらざるを得ない。団塊世代が死を迎える時代に早晩突入すると、年間の死亡数がピークで170万人と5割増える。病院のベッドではおさまらないのだ。(K)

 


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