ナラティブの基本は「聞く」ことにあるのではないか。最近そう痛感している。これが意外に難しい。傾聴する側の気持の問題である。次の仕事が待っているのにという素振りをみせると、すぐに見抜かれてしまう。心から聞いていますよということが相手にわからないと、話す気にはなれないのは当然である。さりとて、この人だけに構っていては仕事にならない。介護の仕事の難しさで、容易に解決できるものではないが、心がけひとつで何とかなることもある。 一方で、相槌(あいづち)の打ち方ひとつで話が弾むという時は素直にうれしい。
大正12年生まれのTさんは元国鉄マン。週刊朝日を購読するインテリでもある。男は概してプライドが高い。認知症の兆しはあるが、得意の話となると背筋がぴんとして、声に張りも出てくる。昭和30年代の北陸線の電化工事に携わった時である。先進の東海道線に学びに行くグループに選ばれた。東京での数ヶ月にわたる研修だが、出身の高岡工芸高校での基礎知識が生きたのである。いまではパソコンだが、当時は計算尺。これが得意なのである。計算尺の全国大会が開催されたりもしていた。一度、家にある古い計算尺を探し出して、持ってこなくてはならない。
計算尺
長谷川式認知症診断テスト
「すごい!満点ですよ。もっと若ければ、東大合格間違いなし」「何言うとっがいね。今したこと、もう忘れとっがいぜ」。自分が認知症になったら、どうしよう。こんな不安に押しつぶれそうということで、任意後見が可能かどうか、司法書士にお願いした。この司法書士から、認知症の診断が必要ということで、長谷川式認知症診断テストを受けてもらったのである。その結果が満点。司法書士から、私の出る幕ではありませんと笑って帰られてしまった。
Hさんは旦那さんも亡くし、姉妹も高齢ということもあり、実質的に自分しか頼れないと思っている。そんなこともあり、心配は尽きない。心配するだけの能力があり余っているといっていいかもしれない。地頭がいいのである。認知症の患者数は200万人を超えるといわれる。この対策こそ大きな課題であり、きめ細かな対策が求められている。
ちなみに30点満点で、20点以上が異常なし。16~19点が疑いあり。11~15点が中程度の認知症。5~10点がやや高度の認知症。0~4点が高度となる。
言葉が出て来ない
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クリスマスパーティー
大阪商人も宵越しの金は残さない。きょうはミナミ、あしたはキタ、いや京都・木屋町の茶屋遊びまで、粋な遊びをやってきた。
そんな粋を身に付けている小柄でダンディなSさんは82歳。ナラティブから定期的な訪問診療、訪問看護、訪問介護の契約をいただいている。
戦後の混乱期を腕一本でくぐり抜けてきた。みんなが裸一貫で横一線。商売にプロもアマもない。今日を生きるのに精一杯だから、これはと思ったことはすべてやってきた。小さな小商いなら、スーパーへ。それが3店舗となり、売り上げは急上昇。しかし、勢いだけでは商売は続かない。経営の勉強などしたことがないから、労務管理とかマネジメントが付いていかない。「スーパーからニワトリの養鶏まで手をひろげましたがな。おもしろかった。いい時代でしたがな」と笑顔での回想談である。
大阪の店をそれぞれに譲って、奥さんの出身地である砺波で余生を過ごそうと住宅を求めたが、その矢先、奥さんが病に倒れた。最初は「ものがたりの郷」に入居されたが、居住性などを考えられて、今は、愛妻と「ちゅーりっぷの郷」に住んでいる。
そんなSさんから、大きなケーキを買うから、クリスマスパーティをやろう、と声がかかった。12月18日、われらが談話室に特製手作りの鍋料理を並べてのパーティとなった。入居の方、家族、わがスタッフの子供達でにぎやかさでは他に負けていない。ここは病院、施設ではないので、ビール、吟醸酒なども取り揃えてる。
Sさんのあいさつ。「ほんとうにここに来てよかった。心からみなさんにありがとうといいたい。」
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こちらでは、ケアや医療についてのこと、