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エイジング・イン・プレイス

横文字は大嫌いの、大の苦手でもある。

しかし医療福祉の先進国にならう政策となると、ついつい横文字がストレートに持ち込まれる。

困ったものだ。

 

エイジング・イン・プレイスとは、住み慣れた地域で高齢者の生活を支え、できればその地で命をまっとうすること。さあ砺波で、しかも過疎の栴檀山地区で、そのことが可能かどうか。挑戦が始まろうとしている。

都会に較べると、まあ住宅は確保されているとして、高齢者が抱える様々な医療・介護・生活支援に対するニーズが、柔軟適切に、継ぎ目なく提供できるかどうか、その仕組みがなければエイジング・イン・プレイスの実現は困難である。

 

いま挑戦しようとする人は、昨年暮れに胃の全摘手術を受けている。

余命何ヵ月という告知を聞き、奈落の底に落ちたような絶望に打ちひしがれた。

しかし手術は成功し、持ち前の負けん気で何とか立ち直った。

通院を続けながら、何とか仕事をこなし、合い間には農作業も自分のペースで行なっている。

しかし早晩衰えてくることは間違いない。

これを家族だけではとても担いきれない。

彼が生まれ、育った栴檀山は、緑豊かな里山だが限界集落といっていい。

ものがたり診療所庄東の範囲内で、昨年は特定健診をそこの農村振興会館で開いたのだが、全員が知り合いで声を掛け合ってのにぎやかなものだった。

人は少ないが、地域の絆という強い連帯感が残っている。

そこに賭けるしかないと思っているし、何とかその成功モデルになるに違いないという確信めいたものもある。

 

そんな人を在宅で、療養及び生活を支えるためには、医療保険、介護保険での制度的なサービスはもちろんのことだが、保険外の様々なサービスをいかに確保できるかが大きなポイントとなる。

その保険外サービスを、地域の健康な高齢者自身に担ってもらうことを想定している。

これは個人の挑戦ではなく、地域の挑戦である。この地域がエイジング・イン・プレイスのモデル地区になるのだ。

 

ぜひ見守って欲しい。


定員割れ

実はさる福祉士養成校に求人票を掲示している。

夜間勤務もあり厳しいですよ、といわれていたので、問い合わせがあればもうけものという気持ちだったが、予想通り全く反応がない。

 

そんな思いのところに、県内の介護福祉士養成校4校の定員割れ報道である。

全体で定員250人だが、何と190人しか入学せず、大きく定員を割り込んでいるという。

「きつい」「低賃金」という介護職離れという現実を、今更ながら見せつけられた。

原因の大きなものは介護保険の持つ矛盾である。

身体介護にしても、生活援助にしても公定価格と決まっている。

真意は定かでないが、主婦の家事労働から算定され、単身者が生計をぎりぎり維持できる水準である。

その人の能力に全く関係がない。

おまけに感情労働といわれる「いつも笑顔で」「優しく親切に」「決して怒ってはならない」「何を言われても言い返してはならない」だ。

無体なほどまでの感情抑制が求められる。

同じ感情労働者であるフライトアテンダント、バーのホステスと較べても、明らかに低いことは間違いない。

 

なぜ、人間の生命を維持し、その死をみとるという労働が、その他の労働の下位におかれるのか。

社会学者の上野千鶴子はジェンダー(女性差別)が深く関与すると指摘する。

ケアは女の仕事、女なら誰でもできる非熟練労働、それだから既婚女性など供給源は無尽蔵という図式だ。

労働条件が改善するためには、この図式構造が壊れる必要があるとする。

 

しかし、待ったなしで要介護者が激増している。

現場だけの努力では限界があることは確か。

当事者の片隅にいるのだが、当面知恵と才覚でどう乗り切るかだが、それでも早晩壁にぶち当たることは間違いない。

あなたならどうする。(K)


サ付き住

 正確にはサービス付き高齢者住宅を指す。昨年10月の法律改正で、高齢者専門住宅(高専賃)などがすべてこの名称に変わった。名称だけではなく、国交省管轄に厚労省が加わって、サービスは安否確認、生活相談が義務付けされ、その他医療介護も積極的に導入して、最終的には看取りまでも視野にいれるようにしてほしいというものに変わった。病院・施設はこれ以上増やさない代わりに、民間で「サ付き住」をどんどん増やして欲しい。そのために建設費、家賃補助を積極的にやるという方針である。
 5月23日、東京で「サ付き住」のセミナーが開かれた。参加費は1万円。今後のためと思って参加したのだが、品川の会場は何と1000人を超えて溢れかえっていた。全国から、この流れに乗って、何とかしてやろうというメンバーである。通路にはボストンバッグやリックが置かれて、真剣にメモを取り、一言も聞き漏らすまいと静まり返って緊張した雰囲気が最後まで続いた。
 超高齢化社会の到来を前にしての空前の財政難。小さな予算で、民間投資を最大限に引き出し、必要な医療介護を最も効率よく配分する。これが狙いであることは間違いない。こんな発言が飛び出したのには、驚いた。特養や老健などの施設も、職員を最小限にして必要な時に訪問看護、訪問介護をいれる。そのために24時間地域巡回型サービスの強化をやるというもの。いいとこだけのつまみ食い施策が、もっともらしく論議されているのである。医療介護を受ける側も、それを提供する医療介護従事者も、人間らしさからますます遠ざかるものだ。良心や優しさを押し殺して、必要最小限の福祉という方向だが、現場から押し戻さなければならない。みんな声を挙げよう。(K)
 


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